前編で、このような設定にしておけばある程度は撮れる、という設定をご紹介しました。
しかし、万能ではないので、しばらく撮影していると、状況によって様々な不具合に遭遇すると思います。ここでは、その解決方法をご紹介させていただきます。これも相方の受け売りですが、写真のことは何も知らなかった私が、実際この前編、後編の経過をたどって、今では自由に調整しながら写真が撮れるようになりました。
露出
前編(01)の設定で、最初に問題が起きるのが露出だと思います。スポット測光は比較的小さなエリアの露出を測ってカメラが適正露出を決めますが、ターゲットの鳥が白いか黒いかによって、露出は大きく異なります。露出決定のメカニズムをわかっていないと、思ったような明るさに撮れないというシーンにしばしば遭遇することでしょう。
被写体の色の影響
まず、カメラというものがどのように露出を決めているのかを理解する必要があります。カメラ自身は、どういう被写体に向けられているかを知りません。とにかく、向けられた測光範囲の光を測定して、それが中間の明るさに写るように露出を決めます。
例えば、シラサギの体がスポット測光のエリアと重なっていれば、カメラは真っ白な体がグレーに写るように露出を決めます。絞り優先モードであれば、カメラのコンピュータは現在の絞り値でグレーに写るようにシャッター速度を速く設定します。
一方、カラスに向けられた場合、カメラはそれが真っ黒なカラスだということは認識しませんから、カラスの真っ黒な体がグレーに写るようにシャッター速度を遅く設定します。
実際われわれが肉眼で認識する白や黒と異なりますが、スポット測光の場合、カメラとはそういう振る舞いをするものだと思ってください。それはコンパクトカメラでも、一眼レフでも、ミラーレスでも同様な振る舞いをします。フィルムの時代からの露出の決まりごとのようです。私も、カメラのその特性を理解するまではなぜ露出の過不足が起きるのかわかりませんでした。人間は、「白いサギを撮ってるんだから白く写してよ」と思ってしまいますが、カメラさんはそれが白い鳥だ、などと知るよしもないのです。
露出補正
測光エリアに対して被写体が十分大きい場合、真っ白なサギは露出アンダーでグレーに、真っ黒なカラスは露出オーバーでグレーに写ってしまうのです。
それを回避するために、露出補正を行います。白いものを白く写すためにはプラス補正、黒いものを黒く写すためにはマイナス補正をします。逆のように感じるかもしれませんが、これも「カメラは白いものも黒いものもグレーに撮ろうとする」ということを知っていれば迷わなくなるでしょう。
現在はデジタルの時代なので、撮影した結果を見ながら調整できるので、上達も速いといわれています。白いサギだったら、白が飛ばず、階調が残っている範囲でプラス補正をすると良いでしょう。真っ黒なカラスだったら、黒つぶれせず、黒の中にも階調が残っている範囲でマイナス補正すると黒いカラスが表現できると思います。
背景の影響
スポット測光と言えども、光を測定する範囲は、ある程度の面積を持っていますし、いつも正確に撮りたい鳥と測光範囲が重なっているとは限りません。多かれ少なかれ、撮りたい鳥の前景や背景の明暗の影響を受けるものです。背景が暗い水面や森の場合と、背景が真っ白な雲の場合では、カメラの測光も背景の影響を受けます。
測光範囲が暗い背景の影響を受けると、カメラは明るく写そうとします。そのため、被写体は明るく写りすぎ、場合によっては白飛びしてしまいます。具体的には、背景が暗い水面や土、森などの場合、ターゲットは白飛びしやすくなります。
一方、測光範囲が明るい背景の影響を受けると、カメラは暗く写そうとして、被写体も暗く写ってしまいます。具体的には、背景が光った水面や雲などの場合、ターゲットは黒つぶれする傾向にあります。
カメラをしばらく使っていると、どのようなシチュエーションでどのように露出に影響するかがわかってきますが、最初は撮った画像を見ながら露出補正をすると良いでしょう。
基本的には、背景が暗い場合はマイナス補正、背景が明るい場合はプラス補正と覚えておくと良いでしょう。被写体の色やターゲットが画面に占める割合などによって異なるので、一概には言えませんが、背景が暗い水面や森などの場合、-0.3~-1.3あたりを多用します。背景が雲や明るい水面も場合、+0.3~+2.0あたりをよく使います。状況に応じて調整してみてください。
Nikonの傾向
ニコン社製カメラは、明るめに写る傾向があるようです。初期設定のままだと白飛びしやすくなるため、プロカメラマンでも普段から-0.3~-0.7くらいに補正して使っている人が多いと聞きました。白飛びした画像は使い物になりませんが、アンダー気味の画像であれば画像処理で救済できるからです。
私も普段は-0.3位にしておいて、そこからマイナスに補正したり、プラスに補正したりしています。
補正方法
露出補正ボタンを押しながらメインダイアルを左方向(マイナス)、右方向(プラス)に回して補正値を設定します。慣れると、ファインダーを覗きながら補正できるようになります。ファインダーの下部に補正値が表示されますので、それを見ながらダイアルを回します。
露出補正は、実は撮影中に最も頻繁に操作する機能です。撮りたいものの適性露出が得られるように、ここだけはマスターしましょう。カメラが進化しても、唯一人間がコントロールしなくてはならない領域です。
面白いことに、数ヵ月間、失敗と補正を繰り返していると、状況を見ただけでどのくらい補正をすればよいかがわかる様になってきます。私でも分かるようになりました。ばっちり決まったときは気持ち良いものです。これは失敗と練習を重ねないと理屈だけでは習得できないかもしれません。皆様も失敗を恐れず、露出補正を体で覚えてしまうことをおすすめします。鳥の写真が撮りたいという情熱さえあれば大丈夫です。
露出補正でよく失敗するのは、戻し忘れです。シチュエーションが変わっても露出補正はそのままになっているので、戻し忘れるとまったく間違った補正で次の写真を撮ってしまうことになります。補正して撮影した後は、必ず戻すようにしましょう。私はずいぶんこれで失敗しましたし、今でも戻し忘れてたまに失敗写真を量産してしまうことがあります。気をつけましょう。
フォーカス
ダイナミック9点を使用していると、かなりの面積があるので、素人でも比較的すばやくピントを合わせることができます。しかし、しばらく撮っていると、状況によってはどうしてもピントが合わない場面に遭遇すると思います。
たとえば、樹上や藪の中の鳥を撮ろうとすると、手前や奥の枝にピントが合ってしまい、どうやっても鳥にピントが合わないことがあります。シチュエーションによっては全部ピンボケ写真になってしまうことがあります。
一眼レフのピントあわせは、コントラストが高いものに合わせようとする傾向があります。また、フォーカスエリアに重なっているものの中で、距離が近い方に合わせようとします。これも一般的なカメラの特性なので、このことを知っておくとピントが合わない謎がとけます。
どうしてもピントが合わない場合、その多くは手前に枝があったり、前や後ろにコントラストが高い枝や物があるときです。ダイナミック9点や21点の場合、前後に枝があるとそちらにフォーカスが引っ張られてしまうのです。周りに障害物がない場合は合焦率が高いのですが、狙った場所以外に合ってしまうことも実は多いのです。マニュアルフォーカスでピントを合わせれば良いのでしょうが、非力な私にとって、カメラを支えながらピントリングを回すのは至難の業です。
初心者のころはカメラも安定しないため、シングルポイントで鳥にフォーカスポイントをあわせるのが難しいものです。そのため、ある程度の面積をもったダイナミック9点や21点などの方が使いやすく感じると思いますが、このようなジレンマが発生します。
野鳥撮影を続けていると、だんだんと狙ったところにすぐカメラを向けられるようになり、レンズの持ち方、手摺や一脚の使用法なども身についてくるので、画面もあまり揺れなくなってきます。慣れてくるとピンポイントでフォーカスポイントを鳥に合わせられるようになるので、シングルポイントに切り替えてみましょう。樹木や藪の中の鳥にピントを合わせる場合などは、シングルポイントが断然有利になります。撮影中にとっさに切り替えるのは難しいので、現在はすべてシングルポイントのまま使用しています。
初心者がいきなりシングルポイントを使うと、カメラが安定しないので、鳥にフォーカスポイントを合わせづらく、ピントが合わなかったり、すぐにずれてしまったりします。そのため、ダイナミック9点で練習して、カメラが安定するようになってきたらシングルポイントにチャレンジするという過程は、素人の私には必要でした。結果、今ではシングルポイントで、瞬時に鳥に合わせられるようになりました。カメラの扱いは奥深いのですね。
まとめ
- カメラの露出を理解しよう
- 露出補正を積極的に使おう
- 鳥の明暗、背景の明暗の組み合わせに応じて補正できるようになろう
- 枝やブッシュの中の鳥には、シングルポイントのフォーカスエリアを使ってみよう
それでは、皆さん、D5600で素晴らしい野鳥写真が撮れますように!
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